5年後 2

5年。

多分、それは忘れたい過去ではなくむしろ幸せな日々だったのだろう。

楽しい時はいつも詳細を思い出す事が出来ない。

反対に嫌な事はよく覚えている。

ただ、なんとなく生きてきてたけど、それはそれで幸せだったのだろう。

 

放送作家学校の情報を受け取った時に

ぷくがなぜ横に居ないのか?

という疑問が同時に湧いた。

 

"本当"に忘れていたのだ。

 

NSCを卒業してからの二人の日々、そして別れ

少しずつではあるが思い出して書けたら良いなと思う。

その事を放送作家学校に通うという本筋を語っていくと"同時に"5年間の出来事を思い出していく、

つまり"メインの柱"がまずあり、その周りをイルミネーションのように断片的なエピソードで散りばめるというのはどうだろう。

そうしよう。

 

それはつまり、放送作家学校の本筋を

クリスマスの木

もみの木だとする。

 

そのメインの木には"何の飾り"もなされていない。面白くない。

その飾り気の無い木に「ぷくとの思い出」という飾りを散りばめていくというのはどうだろう?

 

それはそれは鮮やかなクリスマスツリーとなる事だろう。

そうしよう。

 

話を戻すと、自分は「放送作家学校のチラシを見た」時に、色々と過去の思い出を思い出す事に意識がいったわけだ。

 

ぷくとはあの狭い部屋で最初はうまくやっていたと思う。

お互いに、遠慮し、主張すべき所は主張しあい、折り合いをつけ、バランスを取ってきたつもりだ。

 

しかし、そんな二人が切磋琢磨しても、崩れない壁があったと思う。

 

ここから先の話は長い長い話になる。

 

宮本輝が40年くらいかけて自分の生い立ちを書いた本が最近、発売されたらしい。

 

それよりかは長くはないと思うが、少しづつ

語っていけたら良いなあと。

 

あわよければ読んで頂いてある方々と一緒に過去にワープしたいと思う。

 

良かったらついてきて下さい。

 

続く

 

5年後

まだまだ寒い三月のある日。

朝、背中の激痛で目が覚めた。

何この痛み???

体験した事のない痛みが激しく波打つように襲いかかってきた。

痛い痛い痛い…

体勢をどれだけ変えても痛い。

 

西成のマンションで一人、情けなく泣いていた。涙が勝手に溢れてくるのだ。

仕方ないNに電話しようか…

いや、泣き声で電話して泣き顔晒したら生涯笑い話にされそう…

いや、そんな事言ってる場合じゃない。

これは多分「死んじゃう痛み」だ。

せめて泣き声が収まるまで少し待って、

Nに電話した。

繋がらない。

いつも繋がるのに繋がらない。

 

救急車?いや、近くの病院まで何とか歩いていこう…

杖があったら良かったけどないので

晴天の日にドデカい傘をつきながらノロノロととめどなく溢れる涙を拭いながら病院に向かった。

 

病院に着いた。内科?この激痛は内科で良いのか?

受付の人が「どんな症状ですか?辛そうですね」

「はい、朝起きたらとにかく背中が激痛で…」

「わかりました。緊急ですね。次お呼びしますので少しお待ちください」

とりあえず目を瞑りながら診察を待っていた。

少しと言われたけど、長い…

死ぬほど長く感じる。

待合室では爺ちゃんや婆ちゃんが楽しく談笑している。

「昨日まで俺もそっち側だったんだぞ」

と訳の分からない怒りが発生した。

身体を悪くすると、健康の素晴らしさに気付く。

普段は不思議な事に気付かないのだ。

と、誰かしら散々言ってた事を思い出していた。

その言葉すら普段、健康な状態の時は思い出せないのだ。

 

「ヒラ3さーん」

 

ようやく呼ばれた。

 

お医者さんに「背中の激痛?"結石"かもわからんね。とりあえずレントゲン撮ってみましょう」と言われ

レントゲンを撮ってしばらく待ってると

お医者さんに呼ばれ

レントゲン写真を見せてきて

少しはしゃぎながら

「ヒラ3さん見て見て!これ!くっきり!見える?石!」

と言った。

そしてお医者さんは真顔に戻り

「石で本当良かったです。石なら死ぬ事はない」

 

最後の言葉は少し怖かった。

そしてその言葉で安心した。

 

どうやら腎臓に石が出来たようだ。

不摂生な生活をするとなりやすいらしい。

たしかにこの5年の記憶はあまりない。

 

痛み止めの点滴を受けて暫くすると、嘘みたいに痛みが引いた。

「また、暫くすると痛むと思うから痛み止めの座薬だしときますね。石がオシッコと一緒に出るまで我慢して下さい。ではおつかれさまです」

 

痛みがとれてホッとしたら、お腹が減ってる事に気付いた。

近くの喫茶店でサンドイッチを食べてるとNから電話がきた。

石出来たわ。というと笑っていた。

 

その件があってから死ぬ事について考えるようになっていた。

この5年、自分は何をしていたのだろう。なんとなく日々を生きていた。

夢でも見ていたのか?

お笑いは?

ぷくはどこに行った?

何かしたい。動きたい。

このままじゃダメだ。

 

そんな時、ネットで「放送作家の学校の生徒を四月から募集」

というのを見た。

 

これや!と思った。

 

続く

 

 

西成14 完結編

ぷくとの生活。

 

ぷくは遠路遥々と大阪に来たため、

誰も知り合いが居ない状況だ。

自分とNだけ。

けれど寂しそうな顔を見た事がない。

よく笑い、よくはしゃぐ人だった。

そして、ぷくは本が好きな人で

近くの図書館によく二人で行った。

群ようこ」の本をよく借りていた気がする。

ある日のこと

貴志祐介の「黒い家」を借りて読んでいたら怖くなったらしく、一人でめちゃくちゃ騒いで「もうこの先読みたくない!怖い!」と言っていた。

「じゃあ、読まなかったら良いやんw」

と言うと

「いや、読むけど。近くに居て」

そんな感じだった。

 

ぷくは歌手を目指していた。

当時、ゲーセンには自分の歌を録れる機能を持った機械があったので

二人でよく行っていた。

 

ぷく「恥ずかしいから中に来ないで。外で見張っといて」

「わかった」と言って

平日昼間の誰も来ない閑古鳥が鳴いてるようなゲーセンで"レコーディング"するのを待っていた。

 

ある日、「バイトに行くわ」と言い出した。

実家にお金送りたいからというのが理由だった。

 

「は?そんなん俺、考えた事もなかったわ!欲しい物買いなよ」と言うと

「いや、別に欲しい物ないよ」

と言った。

 

ぷくは近くのスーパーで夕方から深夜までバイトを始めた。

 

自分は牛丼屋で深夜バイト、二人の時間が合わなくなってきた。

けれど、それがお互いの「一人の時間」を作り出せたのかもしれなく、

二人の歯車が良い感じに回っていた。

 

ぷくが横に居るとネタを考える時間を感じなかった。

楽しいからだ。

ぷくがバイトに行くと、何かしなきゃなと思ってネタを考えたり、練習する時間を思い出して練習していた。

 

ぷくはぷくで何かしている感じだったがわからなかった。

ぷくは料理が上手でいつも美味しいものを作ってくれた。

 

10月になっていた。

4月に大阪に来て半年経った。

なんとなくそういえば10月は自分の誕生日だったなあと思ってバイト終えて、朝方ドアを開いた。

 

その瞬間「見ないで!!!」

とぷくが叫んで、何かを隠した。

 

ぷく「あーもう、早過ぎるだろ…早く帰ってきた過ぎだよ本当…」

不満そうにぶつぶつ言っている。

 

「なんなん?」と聞くと

ぷく「まあ、いいやちょっと早いけどプレゼントだよ。暇過ぎて作ったわ」

手編みのマフラーだった。

 

え?なんなん…これ。ちょっと待てよ

全然知らなかった…

「ありがとう…ありがとう」と言ってたら泣きそうになってきて、

「あっそういえばNと話すんだった」

と言って誤魔化して外に出て泣いた。

 

中に入ると、ぷくが「はいこれ、寝るわ」と言ってタオルをくれた。

 

そんな感じで、ぷくとの日々は幸せなだけだった。

 

NSC卒業日が近づいてきた。

自分はNSCにロクに行かなかったけど、

最後に卒業ライブがあり、誰でも最低1分は持ち時間を貰えて、ネタをする事が出来た。

 

最後は最初に作ったネタ「裸で学校に来た生徒を叱る体育教師の「the スッポンポンis keep walking on the ground」を叫んでやろうと思った。

 

ぷくに「見に来てよ」と言うと

 

ぷく「どうせ、滑るんでしょ〜無理無理wバイトだしね〜でも頑張ってね」と言われて送り出された。

 

そりゃそうだ。

 

NSCで優秀だった人達は持ち時間3分を与えられていた。

Nも3分与えられていてニヤニヤしながら「何しようかな〜〜」と悩んでいた。

 

俺は出来損ないのどうしようもない落ちこぼれなので

 

1分

 

逆に気楽だ。

 

「The スッポンポン is keep walking on the ground」

という言葉をぷくがバイトに行ってる間、ずっと練習していた。噛まないように。何千回も呟いていた。

 

卒業ライブ当日

 

いよいよ自分の番が来た。

お客さんが入ってる舞台に立つというのは初めてだ。

 

舞台に立つと

お客さんは縦に連なって見える。

そそり立つ断崖絶壁のようにプレッシャーをかけてくる。

 

ネタを開始した。

めちゃくちゃデカイ声で、叫ぶようにネタをした。

途中、ぷくが客席に居る事に気付いた。

泣いている様子だ。

 

最後めちゃくちゃデカイ声でぷくに向かって

「the スッポンポン is keep walking on the ground」と

 

叫んだ。

 

 

 

終わり

 

 

 

楽しい パチンコ カラオケ 西成13

一緒に住む?

え?無理やろ!と思った。

いや、でもそれも悪くないかも…住みたくなってきた。え?一緒に住むのか?

いや、二人は狭いよ!この部屋!

いや、でもでも…

 

完全に混乱していた。

他人と一緒に住むってどんな感じなんだろう?

全くわからない。

 

NSCにはネタは作ってないけれどたまに行っていた。

頭がぷくの事でいっぱいになった状態でネタを見た。

みんなのネタが今までよりも更に面白く感じる。

 

帰りに仲間達と難波駅の地下にあるなんなんタウンの喫茶店で話した。

楽しい。

今までよりも楽しく感じる。

 

バイト休みの日にOさんとパチンコに行った。

O「ヒラ3君、パチンコっていうのは〜"ピンチチャンスチャンスピンチ"なんだよ」

ピンチで終わるのかよ?

意味わからないけど面白い。

 

ぷくは凄いなあと思った。

逆の立場でぷくと一緒に福島に住むのかと言われれば

「少し時間下さい」と言うだろう。

言い訳の時間が必要だ。

 

自分は言い訳だらけの人生。

 

彼女は違った。自分の意志に従って行動を起こせる彼女を心底尊敬していた。彼女は強い人だ。

その事を彼女に伝えた事がある。

すると「ううん、違うよ都会に住みたかったから適当な人を探してただけw」

と言って笑った。

 

月日が経ち

 

ぷくが大荷物を抱えてやってきた。

「今日からお世話になります」

深々とお辞儀をされた。

 

ぷくとの日々がこうして始まった。

 

バイトに行く時、寂しげな表情で「早く帰ってきて」

と言われ「時間決まってるから…」と言い後ろ髪を引かれる思いでバイトに行ってた。

バイトが終わり店のドアを開けると

ぷくが迎えに来てくれていた。

 

Nも一緒だったので

Nに「あれ、あれれ〜〜ヒラ3君彼女おったんや〜」と冷やかされた。

 

三人で一緒に帰った。

三重と岡山と福島の人が大阪の街を朝方歩いている。

朝日がいつもより眩しい。不思議だ。

 

その内ぷくはNとも仲良くなって

三人でカラオケ屋に行った。

 

Nが得意気にスピッツを歌いだした。

結構上手いなあと思い、二人で拍手した。

「上手いやん」と言うと

Nは「上手いねん」といつもの調子

 

次にぷくが淡々とした感じでaikoの「ボーイフレンド」を歌い出した。

 

度肝抜かれた。

上手過ぎる!!!

歌が本当に上手い人の声ってこんな感じなんだと感動してたら

Nも同じような事を思ったらしく目をまん丸に見開いて興奮しながら手をかざし

「俺が今まで聞いた歌の中で五本の指に入る」と叫んだ。

 

そして、自分の番

どうしよう歌知らない

 

二人がニヤニヤしながら

「ヒラ3君が好きな歌歌えば良いねん」

「そうよヒラ3が好きな歌歌えば良いのよ」

励ましてくれた。

うーん

 

じゃあチャゲアスの「僕はこの目で見て嘘をつく」を入れた。

小学生の頃、初めて買ったシングルCDだ。

 

その瞬間から二人が爆笑している。

 

芸人を目指してる人

歌手を目指してる人

 

二人に何にもしていない自分が笑われている。

 

幸せな時間だった。

 

続く

 

 

 

 

色彩のある街 OCAT 西成12

バイトにも慣れてきた。

声も大きく出せるようになってきた。

それは多分バイトが楽しかったからだと思う。

チェーン店の安心ポイントは何より、

マニュアルが完備されてるところだ。

それに従ってさえいれば自分みたいな馬鹿でも大きく道を外す事はない。

そして心強いバイト仲間達が居る。

NやOさんが笑わせてくれる。

賄いもある。

言うこと無しだった。

バイトが終わって朝方、店を出ると

色彩がそこにはあった。

 

しかし、ぷくが来るのか…

どうしよう

来たとしてどこに連れて行けば良いのだろう?

meetsみたいな本でも買おうかな…

女の子との過ごし方が全くわからない。

あの散らかった部屋に泊まるのか?

とりあえずピカピカにしておかないとな…

服装はどうしよう…

 

考え出したらキリが無かった。

とりあえずまあなんとかなるやろ。

 

来る前にぷくと電話をした。

ぷく「二泊三日で高速バス予約したよ〜難波のOCATってとこに着くらしい」

"二泊三日"

ぷく「ヒラ3ちゃんの家に泊まらせてね」

「狭いけど良いの?」

ぷく「全然いいよ〜」

 

翌日から大掃除が始まった。

不思議なもので誰かが来ると分かると身体が動く。

 

ぷくが来る日、早朝だった。

1時間も早く難波OCATで待っていた。

ぷく「どんな格好してるの??」

「一番ダサい奴を見つけてくれたら良いよ」

ぷく「一番ダサい奴だね〜わかった」

実際ダサかった。今もだけど。

 

緊張しすぎてとりあえず朝マック朝マック二つも食べてた。

食べた気がしないし全然味がしなかったからだ。

食べた後、ヤバイ!朝マックの口臭が!とか思って、トイレでうがい30回くらいした。

 

バスが到着した。

なんとなくびびって柱に隠れた。

ぞろぞろと降りてきた。

ぷくだ!見た瞬間わかった。

 

キョロキョロしてる。

行かなくては、、、

ぷくの方に向かった。

ぷくと目が合った。

ぷく「ヒラ3ちゃん?」

「うん」

ぷく「大変だったよ〜バス」

ぷくは無表情だった。

 

「お腹減った?どっかお店行く?」

ぷく「ううん、バスで食べたし疲れたから家で休みたい」

「あ、わかった」

無表情で無言のぷくと二人で、地下鉄に乗った。

凄く重そうな荷物があったので

「持つわ」

ぷく「ありがと」

これくらいの会話しかしていない。

嫌われたのかな。まあダサいから仕方ない。後は迷惑かけないようにだけしよう。

 

部屋に着いた。

部屋のドアを開けてドアを閉めた途端、

ぷくが抱きついてきた。

 

???

 

ぷく「ダサいからじゃないよ!すぐわかったんだよあの人だって!直感!まあダサいけどね〜〜笑」

抱きついてきてぷくは笑いだした。

 

ぷく「バスで寝てないから眠たいんだよね〜布団勝手に敷くね〜〜横来て」

シングル布団なので少しはみ出しながら横に寝た。

身体半分は床にある。

 

するとまた抱きついてきた。

 

不思議とエロいとか興奮とかあんまりなくてただただくすぐったい。

女性の身体の柔らかさにもビックリした。

 

色々話したりイチャついたりご飯食べたりしてる内にあっという間に3日経ち、ぷくが帰る日が来た。

 

OCATまで送りに行く。

ぷくが泣いている。

バスの扉が開いた。

 

ぷく「一緒に住むって決めたから」

え?

ぷく「バイバーイ♪」

西成に着くと色彩のある街がそこにはあった。

 

続く

手紙 NSC Sの家 西成11

数日後、ぷくから手紙が届いた。

まずビックリしたのが字の綺麗さ。

そして内容も素晴らしかった。

手紙待ってるね。と書かれていた。

プリクラも入っていて

ぷく!という感じだった。

 

ヤバイ。女の子に手紙なんか書いた事ない。

 

ぷく「手紙届いた?」

「うん」

ぷく「良かった〜プリクラも急いで撮ったんだよ友達にお願いして」

「見たよ」

ぷく「〇〇ちゃん(ヒラ3)からの手紙楽しみに待ってるね〜」

 

どうしよう…

 

悩んでても仕方ないのでNSCに行った。

四ツ橋線に乗り大国町で乗り換え

御堂筋線で難波まで行く。

難波についたら5分くらい歩いて教室に着く。

みんなのネタを見る

N岡くんとK戸くんのコンビ上達してるな〜PえとN川のコンビも面白い。SもI君もNもピンネタで爆笑した。

自分が悩んでるのはネタではなく"女の子への手紙"の事。

 

授業終わりにSに「家くる?」と言われSの家に寄った。

 

Sの家は生野区にあった。

部屋にはベッドしか置いていない。

綾波レイみたいな部屋だな。

なんというストイックな奴なんだ。

 

ネタが浮かばないという話を切り出した。

Sはガバガバタバコを吸っていた。

 

S「ネタやらんの?もったいないで」

高く買ってくれてたのかな?

「まじで?」

と言ったら

S「いや、違うねんヒラ3君の事じゃなくてお金払ったやろ学校?」

「うん」

S「そしたらもったいないやん。やりたい事をやりまくっていい場所を買ったのにって事」

「せやな」

S「適当に思いついた事でもドンドン試したらええねん。完成してなくても良いねん。ナルシストやねんな〜ヒラ3君は」

ナルシスト…ナルシストなのかもしれない

「たしかに」

そう言って別れた。

 

Sの言葉に触発されて、パワーがみなぎってきた。

ネタじゃなくて

ぷくへの手紙へのパワーだ。

 

汚くても良い、文章めちゃくちゃでも気持ちさえこもってれば良い。

ダイソーでレターセットを買って帰り

 

部屋で思いのたけをぷくにぶちまけた。

 

そして夜中にポストに投函して寝た。

よっしゃあ!という感じで。

 

数日後、ぷくから電話があった。

「手紙着いた〜?」と聞くと

ぷく「着いたけどさ〜中身何にもないんだけど 笑」

「は?」と言って部屋を見ると、細かな字で書き殴った紙が片隅にあった。

ぷく「お笑い目指してるって言ってたからネタなのかな〜って。妹と話し合ってたんだよ」

「ネタやねん」

全然ネタじゃない…

 

手紙を今度はちゃんと入れてぷくに送った。

 

ぷく「やっと手紙きたよ〜文字小さくて読めなかったから虫メガネ使ってよんでたの。ありがとうね」

 

明らかに"汚い".字だったのに"小さい"に切り替えてしかも、"虫メガネ"という

笑いに変えようとしてくれた。

 

ありがとう。

 

ぷく「言いたい事も伝わってきたよ。そんなに私の事好きなんだね。

そういえば最近、タトゥー彫ったんだよ」

「タトゥー?」

ぷく「狼のタトゥー入れたの。強く生きるって。だから私、バスの予約したよ。来週行くから」

 

来週???

 

 

続く

 

ダンス 牛丼屋 江坂 西成10

ぷくとの電話を繰り返してる内に

標準語か福島弁かはわからないが言葉が伝染ってきた。

「だよねー?って言った今?笑」

「言って・・・ないよ、いや、ないやん」

「誤魔化そうとしなくていいよ 笑」

 

影響受けやすいな自分は、とその時、気がついた。

多分、アメリカに住んだらすぐ英語ペラペラになるんじゃないのかなあとか思ったりした。

 

次の日NSCに久しぶりに行くとダンスだ。

NSCにはダンスの授業もあった。

久しぶりにジャージを着て一生懸命クネクネしていると鏡越しにクスクスしてる奴が居る。Nだ。

終わった後、Nに「ヒラ3君のダンスおもろいわ」と言われた。

自分的には一生懸命やってるだけなのだが…

N 「そういえば今日の夜から、バイトやんな?俺とO崎さんとヒラ3君の三人でやるから頼むわ」

 

今日からバイトだ

23〜8時 1時間休憩のみっちり8時間

生活リズム変わるな

牛丼屋は忙しいイメージがある。

しかしコンビニの1人を経験したから大丈夫だろう。

3人でしかも頼もしいNも居る。

 

ぷくとは夜中まで電話してる事が多かったので報告した

「今日から夜中バイト入る事になったわ」

「何のバイト?風俗?」

「牛丼屋。」

「ぷひゃあああ、笑えるwww牛丼作るの??似合ってないよ」

 

会った事ないし、顔も知らないのに似合ってないとは???

 

少し早めにバイトに行くとOさんが居た。

O「おーヒラ3君"おはよう"!!!」

"業界人"の挨拶だな。

「おはようございます!」

O「今日からよろしくねー。でさー早速だけど…」

「はい」

早速、仕事かな?身構えた。

O「今度、江坂で舞台があるんよ。これチラシあげる」

チラシを見るとOさんの名前が確かにある。

O「俺"主演"だから良かったら見に来てよ〜1000円だけど、俺の名前出したら500円になるから」

「わかりました。行けたら行きます」

 

Nが遅れて来た、何かニヤニヤしてる。

「ヒラ3君とOさん並ぶとおもろいな 笑」

O「どういう事よNちゃん」

N 「いや、不思議やなあと思いまして 笑」

O「なるほど、全員スターになるって事ね?いずれ伝説になるよ」

N 「はあ???」

みんな笑った。

 

バイトが始まった。

二人から色々と教えてもらい、まずはカウンター係

 

「いらっしゃいませ!ご注文よろしいでしょうか?」

「並一丁!」

「並つゆだくで一丁!」

「並つゆぬきで一丁!」

「A定一丁!」

 

とにかく「一丁一丁」言いまくっていた。

仕事振りを見るとNはやはり優秀で、一回の行動で二つ以上の事を涼しい顔でこなしてるように思える。無駄がない。

しかしあまり元気がないのがどうかな?と思ってたが、そこはOさんの超絶なパワーに遠慮していたのだろう。

 

朝方のOさんのテンションは異常だった。

O「いらっしゃいませ!!!!!!」

俺とN はクスクス笑っていた。

 

この二人とならやっていけそうだ。

頼もし過ぎる。しかも楽しい。

ついてるなと思った。

 

朝の帰り道、Nと一緒

N 「そういえばヒラ3君、Oさんの舞台聞いた?江坂であるらしい」

「うん」

N 「おれ、あんま行きたないねんけどヒラ3君行くんなら一緒に行こや」

「いこいこ」

 

帰って寝てるとぷくから電話があった。

時間を見ると夜21時だ。

初日バイトの疲れか、めちゃくちゃ寝てたようだ。

 

「バイトどうだった?」

「まあまあかな」

「今日も?」

「うん」

「大変だねー頑張ってね〜〜」

「ほい」

 

何日かバイトをこなし少しは慣れてきた。

その牛丼屋には賄いシステムというのがあり、4時間働くと牛丼並を一杯食べる事が出来る。

8時間働くと牛丼二杯。

これはデカイなと思った。

食費がめちゃくちゃ浮く。

しかし、牛丼連続食いも最初だけでそのうち"飽き"との闘いになる、結局飽きに負け、他の定食屋で無駄な出費をしていた。

 

Oさんの演劇の日

Nと二人で地下鉄御堂筋線で江坂まで行った。

二人とも江坂は初めてで

降りた時、街過ぎて感動した。

色味がある。

N 「江坂って都会やな。ハンズあるわ」

「ハンズあるな」

N 「見てヒラ3君!スタバあるわ」

「スタバあるな」

完全に田舎のバカ兄弟の会話だ。

 

Oさんの演劇を二人で見た。

"主演"と聞いてたのに全然出てこなくて、途中の方で物語と全く無関係な犬みたいな格好をして出てきて

「ワン」と一回吠えて掃けていった。

 

カーテンコールで、犬のOさんが嫌がるヒロインの女の子を無理矢理、お姫様だっこし、「俺が主演のO」と叫んだ。

 

よくわからない舞台を見て

Nとせっかく江坂まで来たのだからという事で

お洒落なカフェに寄った。

 

俺は、なぜだかわからないけれどNに対して「俺はこんなとこ何回も入った事ある」って思われたかった。

"あなたみたいな田舎者"とは違うと。

ええかっこして「カプチーノ」を頼んだ。

カプチーノってなんだろ?と思いながら

Nがニヤニヤしながら「やるやん」

と言った。

カプチーノを見た瞬間、ビックリして

「泡だらけやん」と叫んでしまった。

Nは爆笑していた。

 

その日は休みだったので

ぷくと電話した。

 

ぷく「ねーなんか好きになってきたんだけど」

「は?」

ぷく「近いうち大阪行くから待ってて」

 

 

続く