つみきの子

5歳になったサトシはリビングで恍惚の表情を浮かべながらつみきをしていた。

 

母「あら、サトシよく出来たね〜何これ?」

サトシ「富士山」

父「富士山かあ!大きくなるぞお前は!」

サトシ「えへへ」

 

サトシは”リビング”でいつもつみきをする。そうすると、父や母、この家にたまに来る祖父や祖母、父の友人、母の友人色んな人が話しかけて喜んでくれるからだ。サトシはそれが嬉しくて嬉しくてつみきに夢中になるのだ。

サトシ「明日は何作ろうかな〜」

サトシは毎日毎日、明日のつみきの新作を楽しみにしながら幸せな気分で寝る。

 夢でも聞こえてくるこの声

「すごいな〜サトシは!」

 

そしてサトシは8歳になった。

いつものようにリビングで236回目の新作のつみき

パキスタンのゴミ屋敷」を自信満々な表情を浮かべ、「どや!」っと披露した。

 

母「…ああ、なるほど…ね…」

父「…それよりサトシ…学校はどうだ?」

 

その刹那、サトシは雷を浴びたかのような衝撃と共に違和感が頭を支配した。

「え?」「あれ?」「おかしいな」「喜んでない?学校?何それ」

けれど、サトシは今まで200数回の実績があるため、「まあ、たまたまだよな」

と自分自身を納得させ、「明日こそは」

とまだまだあるつみきの新作ストックを胸に寝た。

しかし、そのサトシの思いとは逆にこの日を境にドンドン事態が深刻化していく。

 

母「はあ…また”それ”もういいからいいから…」

父「”そんなもの”より宿題まだか?」

 

サトシはその日、自分の部屋で泣いた。

「モハメドアリのグローブ」「対戦車地雷」はまあ、百歩譲ってわかる。けど

ガガーリンと三途の河」まで全滅とは…

 

心がポキっと鳴った気がした。

 

その日からサトシはつみきをやめた。

魚の死んだ目をしながら無気力な日々が続いていった。

そして今まで「つみき」をする理由で友達の誘い断っていたが暇なので友達と遊ぶようになっていった。

 

ある日のことサトシは友達の家で生まれて初めてTVゲームやってみた。

「楽しい!なにこれ!」

 

久しぶりに味わった衝撃。サトシは「これだ!」と思い、家に帰ると両親に「TVゲームを買って欲しい」とお願いをした。

やっと”つみき”を諦めてくれたと思ったのか父も母も

 

父「そうか!父さんと一緒にやろう、明日帰りに買ってきてやるよ!」

母「ずるい〜〜母さんもやるわよ!」

 

興奮して嬉しそうだ。サトシ自身も、TVゲームはたしかに楽しいし久しぶりに幸せだなあと感じていた。

 

しかし、なにかが違う、と思った。

「つみきが無くなったから今度はTVゲーム?」

 

サトシは自分の部屋に戻り

 

久しぶりにつみきがしまわれてある引き出しを開け、つみきをやってみた。

 

その瞬間、サトシは確信した。

 

次の日からサトシは”自分の部屋”で誰にも見せない自分だけのつみきを幸せそうに再開した。