コメダ物語

 

智はコメダ珈琲が好きだ。

智は今日も仕事終わりにコメダに行ったのだ。(週2、3回のペース)

仕事終わりの解放感も相まってウキウキワクワクしながら、コメダに入ると店員さんが「おタバコ吸われますか?」と聞く。

 

智は「しまった〜」「忘れてた!」と

顔真っ赤にした。

 

普段、智はその有難い言葉を言わせないように、煙草の箱を「印籠」のように

(とは言ってもどや!じゃなくてさりげなく胸ポケットから明らかに見えるくらい箱を過剰に出しておく)

 

示しておくという配慮をしていたのだ。

 

智は申し訳無い気持ちと(まあ仕事の解放感で気が緩んだだけ)という言い訳の思いが濁ったような声で「はい」と言うと、店員さんは喫煙室(ドアという仕切りによって完全分煙)に手招きのジェスチャーで案内してくれた。

 

その時、智は後ろ髪引かれるような思いが毎回一瞬だけして、それは「いつか、向こう側(煙草の汚い煙が一切ない空気の綺麗な世界)に行きたいなあ」という気持ちに毎回なる。

 

なので、智は罪人のような気持ちで喫煙室のドアを開ける。

喫煙室に入ると自分が喫煙者にもかかわらず一瞬「くさ!」となるが、「まあ、、そうだよね〜」と智は自分を納得させつつ、自分自身の喫煙からなる「臭さ」という業を受け入れるのだ。

 

「お好きな席にお座り下さい」と言われ智は少し頭を悩ませる。

智は大抵”1人”で行動してるので、どこの席に座るかが問題だ。

4人掛けのテーブルに1人はちょっと恐れ多く、2人掛けのテーブルがあればそこに座る。ちょうど空いてた。

智「ラッキー♪」

(カウンターがあれば良いのだがコメダは無い店が多い)

 

席に座るともう一つの空席を鞄で埋めつつ智は「椅子やっぱ良いなあ」と小さく呟きながら良い椅子の感動少し浸ってると、程なくして店員さんが来た。お冷を置きつつ

「ご注文、お決まりになりましたらベルを押して下さい」

 

ここで、智は素直に「はい」と言いたい気持ちを押し殺す、というより自分のクソみたいな「拘り」によって店員さんを”ここで帰したら”店員さんは往復しなきゃいけない訳で二度手間になる。「帰したら二度手間」が頭をよぎり、

 

智「あっ注文良いですか?」

 

「はい!(笑顔が可愛い)」

 

智は、「コメダのピザとアイスカフェオレ”シロップ入り”で」

 

智は我ながら「完璧だなあ」と自分に酔っていた。

 

コメダのピザ」の正式名称は「コメダ特製ピザ」だ。けれどコメダ特製ピザというとなんとなく店員さんに対して、「正式名称全部言わないとわからない輩なんやろ?」

 と圧を与えてる嫌な客と思われるかもしれない。

かと言って、「ピザ」とだけ伝えると、なんかぶっきらぼうだし、「ピザトースト」と混同されて「コメダ特製ピザの方で良かったですか?」と聞き返されかねない。

 

だからこその「コメダのピザ」という

完璧なオリジナリティ溢れる言い回しに智は酔っていた。

 

その刹那、「カフェオレは食事の前と後、どちらにお持ちしましょうか?」

 

それを言われた瞬間、智の全身に雷の音が鳴り響いた。

智「あわ、あわわ、先にお願いします…」

 

完璧だと思ってた。完璧だと思い込んでた。”そこから”の角度からのショック。

 

智は仕事の終わりの疲れが

また舞い戻ってきたかのような

感情で全身を支配されていたのだ。

 

 

続く