今日は休みだったので電車に乗って将棋道場のある町まで出掛けた。
自分の住んでる町には道場が一軒もないのだ。
この町に越してきた時に検索したら一軒だけ引っかかり
喜び勇んで行くと将棋道場なんかどこにもなく、廃墟だけがそこに立っていた。
ガッカリしつつもせっかく来たので、少し入ってみると中はめちゃくちゃ散らかっていて壁が崩れ落ちていて歩が3枚散らばっていたのを覚えている。
今はインターネットという便利な物があり将棋をやろうと思えばいくらでも"顔のない"対戦相手はみつかる。
…
しかし…もの足りなくてなってきた…
「生でパチパチしてえ!!!!!!
え!!!
生の人間と指してみてえ!!!」
その欲望がパンパンに膨らんできたのだ。
「腹が減っては戦は出来ぬ」とまずは、美味しいトンカツ屋で腹ごしらえして駅まで意気揚々と勇ましく歩いた。
駅に着いた瞬間、あれ?
「急に行きたくなくなってきた」
またかよと思った。
"さっきまでやる気だったのに急にやる気なくなる"という昔からの病気だ。
まあ、とりあえず乗ってから決めようと思い電車に乗るとますます後悔の念が湧いてきた。
知らないところに行くのは苦手だ。
調べたら老舗の将棋道場で多分、常連がゴロゴロしてる。
知らない奴がきたら奇異の目で見られるだろう。
「なんやあいつ誰や?」とか聞こえてきて腕組みをしたおじさんに囲まれたらどうしよう…
鬼の形相した超怖い主が居たらどうしよう…
家でネット将棋やってれば良かった…
そんなマイナス思考の転校生になった気持ちのまま、
"道場がある町"に着いた。
ここまで来たんだから、とりあえずちらっと、"どんな道場"かだけ見て嫌なら帰ったらいいやんと思って、道場まで歩いた。
心臓がドクンドクンと波打っている。
家が恋しい。帰りたい。
ボヘミアンラプソディー観にいけばよかった…
道場のあるビルに着いた。
ネットで調べたら二階にあるらしい。
階段を上がると「いらっしゃーい」と優しそうなお爺さんの声がした。
どこから見てるんだろう?
その声に引き寄せられるようにドアを開けるとまず見えたのがランドセルの山
俺の顔を見るなり一人の小学生が指差してきて叫んだ。
「なんか変な人きたー!!!」
顔が真っ赤になった。
おじいさんがその子をたしなめ、
「ごめんなさいねえ、賑やかで。初めての方やんね。とりあえず名前書いてね。すぐ空くから」
優しい人だ。
名前を書いてる間、少し冷静になって周りを見ると全然イメージと違った。
・意外と狭い
・そろばん学校みたいだな
・畳じゃなくてテーブルなのか
・爺さんが一人もいない
居たのは小学生8人くらいと年配の男性とマスクしてる年配の女性だ。
待つ間、しばらく小学生と年配の男性が指してる将棋を見ていた。
「先生、これは?」
「そういう時は歩を先に成ってこうしたらええねん」
年配の方は先生と呼ばれてる。
強いんだろうな。
おじいさんが呼んだ。
「お兄ちゃんこの子結構強いけど指してあげて〜」
見ると余裕のある顔をした丸坊主の少年がこっちを見てニヤニヤしながら「カモーンベイビー♪」と言った。
こいつ完全に舐めてやがる
ガキが
メラメラと燃えてきた。
その余裕、完膚なきまでに粉砕してやる。
一旦深呼吸した。いざ決戦の時だ
続く