西成2

http://hauto3.hatenablog.com/entry/2018/11/26/025556

の続き

 

"相方"になったYと別れた後、とぼとぼと歩いて帰った。

Yの家は通天閣の近くだった。

そこから西成まで歩いた。

夕陽が眩しかった。

即席とは言え人生で初めてコンビを組めた。俺みたいな奴が誰かとコンビなんて組めると思ってなかった。

でも

「全然嬉しくないし、なんであいつやねん!」と憤りを感じていた。

あの時、ちゃんと"断る勇気"さえ持っていれば…喫茶店の時間に戻らないかな。

 

しかし

色々な人とちゃんと喋っても結局誰も組んでくれなくて一人になってた可能性もある。

Yも自分に断わられたらさっさと違う相方を見つけて"ニケツでキッズリターン"して帰っただろう。

組んでくれた事はやはり感謝なのかな。

色々な思いが交錯して混乱していた。

 

とりあえずネタ作るか…

 

どうやって作るんだよ!

全然わからない。その日はとりあえずダラダラして寝た。

 

次の日、発声練習の授業に出た。

Yが横に来た。

なんで横やねんと思いながら

「あめんぼあかいなあいうえお!!!」

「うきもにこえびもおよいでる!!!」

とか横並びで"相方"とひたすら大声で叫んだ。

 

授業終わり、Yが「ネタできた?」

「まだやわ」と言うと、

Y「コントしたい、コントのネタ書いて」と言った。

 

コント指定。いや命令か。

俺の意思に関係なく相変わらずの強引さだ。

でも指定されるとやりやすいなとも思える。漫才するかコントするか悩んでたから。

 

じゃあコント作らなきゃ。

NSCの手見せは3分だったと思う。

教室を見渡すと

"喫茶店効果"か周りのひとたちは次々とコンビを組み始めていた。

焦ってきた。

 

家に帰り、とりあえず"自縛"を見た。

フォークダンスDE成子坂のVHSだ。

面白くてただアホみたいに口を開けて笑って終わった。

何の参考にもならない。ただ桶田敬太郎から時折繰り出される奇抜なフレーズ

「不向き?向き?ふむきむき?」

「ネインチェット」

とかやっぱ好きなんだなあと思った。

 

その時ふと、地元のスーパーのレジでバイトしてた事があるからなんとなくその時の経験をそのままネタにしようと思った。

 

スーパーのレジでカゴからカゴへ移す時は結構気を使う。

例えばパンを先にピッと通すとすると

パンは"次のカゴ"に入れては駄目でちょっと外に出しておく。パンを下にすると潰れるからだ。

これを"柱"にして作ってみようと思った。

 

スーパーにて変なレジ店員と客

 

パンをカゴの下に置いてガンガン重い物を上に載せていく。

「おいおい、パン下に置くなよ」

「すみません」

下に薄昆布を敷いてその上にパンを置きまた重いものを置く

「また潰れてるがな、下に置くなって」

「下には置いてません、薄昆布があります」

「昆布知らんわ!いや、とりあえず俺が言ってんのは重いものを上に置くなって事」

「わかりました。」

次は卵を下に置き、重いものをガンガン載せて

「パンを上にしました」

「いや、卵も下にするなよ」

 

最終的にまたパンを下にし始めて、

店員が「パンはへこんだ方が美味しいですよ」と逆ギレする

客「なんやねんそれ」

店員「へこみパン」

 

終わり

 

(実際、自分は食パンとか丸いパンをぺちゃんこにして食べたりもしていた。固い方が美味しいと感じたからだ。)

 

とりあえずネタが出来てホッとした。

面白いかどうかはわからない。

生まれて初めて書いたネタが「へこみパン」満足した。ぐったり疲れていた。

 

明日、Yの家に行こう。

相方はどんな反応するだろうか。寝た。

 

次の日、NSCは休み。

電話したらYは間の抜けた声で「おー、いつでも来てや」

 

つまらないと言われたらどうしよう、面白いと言われたら良いな、どんな顔をするだろう。

 

Yの家についた。緊張する。

面接みたいだ。

 

Yはパジャマみたいな服で迎えてくれた。

「これ書いてん、見て」

こみパンの"台本"を渡した。

「貸して」

Yは口をくちゃくちゃと何かを口に含みながら台本を見ていた。

ドキドキしていた。

無表情だ。

しばらくするとYはCDコンポの上にへこみパンの紙を投げるように置いた。

「実は、俺も書いたのよ。見て」

 

あれ?終わり?へこみパン終了?

「面白い!!!」はともかくとして「つまらない」とかも???

批判すらない。反応ないというのは何と悲しい事なのか。

 

Yが書いた台本を読んだ。

ヤンキーが便所でタバコを吸っている。

それを注意する先生とやり取りするネタだ。

明らかに吸ってるのに吸ってないと言い張るヤンキー。結構面白いと思った。

しかし、ヤンキーが「バファリンの半分は優しさやねん」と言う台詞が気になった。

バファリンの半分は優しさ」

は当時、色んなコントとかテレビとか世間話でも聞いた事があったので、

 

面白いと思うと前置きした上で

バファリンの半分は優しさについて指摘をした。削ろうと。

Yは「いや、それなかったら意味ないねん」と言った。彼の柱はバファリンの半分は優しさなのだ。

譲らない。

大激論を交わしたのち、その内だんだん喧嘩みたいになってきて

Y「大体、おまえのへこみパンてなんやねん!」

こっちの柱を折りにきた。

 

「もう帰るわ」と投げ捨てるように言ってYの家を出た。

 

へこんだ。Yの事もへこましてしまったのかもしれない。

バファリンの半分は優しさ。

 

「あした、解散しよう」

 

そう決めて西成に帰った。

こみパンてなんやねん…たしかに…

猫がどこかで鳴いていた。

 

続く。