ピン 西成4

YとSを見送った後、

気分がスッキリしていた。

自分の役目を終え"無事"解散できたからだと思う。一仕事したみたいな感じになっていたのだろう。

電車に乗り帰ってる途中、また一人かと思うと少し寂しさを感じた。

二人は今ごろどんな会話をしているだろう。

ニケツでキッズリターンしてるだろうか。

不思議とあんなに嫌だったYの"強引さ"そんなに嫌いじゃなかったかもな、とか考えていた。

 

まあしかしとりあえず手見せ一回したいなあ。

ピンネタをとりあえず作ろうと思った。

 

うう…何にも浮かばない…ピンネタって

どうやって作るねん!

とりあえず寝た。

 

次の日、発声練習

お?

YとSが隣同士になってる。

上手くいったのかな。世話焼きおばさんみたいな気持ちになっていた。

 

授業が始まり

先生が「よし今日は一人ずつやっていくぞ」

ん?

先生「端のお前から順番に叫べ」

あめんぼあかいなあいうえお!

「はい次!」

うきもにこえびもおよいでる!

やばい、順番が迫ってくる。

こういう「今まで全員でやってたのに、いきなり一人でやれって言うシステム」苦手過ぎる。

一行ずつ来てる。

自分の箇所どこや、慌てて探した。

自分の番がきた。

 

大きい声で叫んだつもりだった。

先生「もう一回!」

ここまで誰も"もう一回"なんて言われてない。

もう一回叫んだ。

先生が近くにきた。

「お前、何やってんねん?もっと叫べ早く!」

何でこんな事言ったのか今でもわからないが「最大限でですか?」

何人か笑った

「当たり前やろが!そんな蚊みたいな声誰も聞こえへんで!お前、何しにきたんや!」

顔真っ赤になった。

たしかにそうだ。自分は"何しに"きたんだろう。

その後、繰り返し"指導"して貰ったおかげで

先生に「少しはマシになったな、しかしまだまだや。家で練習しとけ」

なんとか終わった。

 

頭がボーゼンとなっていて「何しにきたんだろう本当に」とずっと考えていた。

とにかく帰るか…

 

階段を登っていると(NSCの教室は当時地下にあった)

Sが話しかけてきた。

Yは居ないようだ。

 

二人で歩きながら話した。

S「面白かったで」

「え、何が?」

S「最大限。」

「あー頭パニクってたわ、Yは?」

 S「なんか用事あるから言うて先帰ったわ。あいつ如きに何の用事があんねんなあ」

「ほんで組んだん?」

 S「とりあえずな、あいつのネタあかんから俺が書く事にしてん」

 

もしかして…

 

 S「バファリンの半分は優しさとかもう擦り切れるくらい聞いた事あるから、こんなもんあかん言うて俺書くわってなって」

 

あいつあれめっちゃ気に入ってたんだな

 

 S「で、見たで"へこみパン"」

 

見せやがったな。あの紙燃やしとけばよかった。

あいつ殺したる!

 

 S「ようわからんかったけど変やな、とは思った。これ書いたのは変な奴やなって。いや褒めてるんちゃうで」

Sはそういうと笑った。

 

感想をもらえただけで嬉しかった。

 

まだやめないでおこうと思った。

 

 

続く