5年後

まだまだ寒い三月のある日。

朝、背中の激痛で目が覚めた。

何この痛み???

体験した事のない痛みが激しく波打つように襲いかかってきた。

痛い痛い痛い…

体勢をどれだけ変えても痛い。

 

西成のマンションで一人、情けなく泣いていた。涙が勝手に溢れてくるのだ。

仕方ないNに電話しようか…

いや、泣き声で電話して泣き顔晒したら生涯笑い話にされそう…

いや、そんな事言ってる場合じゃない。

これは多分「死んじゃう痛み」だ。

せめて泣き声が収まるまで少し待って、

Nに電話した。

繋がらない。

いつも繋がるのに繋がらない。

 

救急車?いや、近くの病院まで何とか歩いていこう…

杖があったら良かったけどないので

晴天の日にドデカい傘をつきながらノロノロととめどなく溢れる涙を拭いながら病院に向かった。

 

病院に着いた。内科?この激痛は内科で良いのか?

受付の人が「どんな症状ですか?辛そうですね」

「はい、朝起きたらとにかく背中が激痛で…」

「わかりました。緊急ですね。次お呼びしますので少しお待ちください」

とりあえず目を瞑りながら診察を待っていた。

少しと言われたけど、長い…

死ぬほど長く感じる。

待合室では爺ちゃんや婆ちゃんが楽しく談笑している。

「昨日まで俺もそっち側だったんだぞ」

と訳の分からない怒りが発生した。

身体を悪くすると、健康の素晴らしさに気付く。

普段は不思議な事に気付かないのだ。

と、誰かしら散々言ってた事を思い出していた。

その言葉すら普段、健康な状態の時は思い出せないのだ。

 

「ヒラ3さーん」

 

ようやく呼ばれた。

 

お医者さんに「背中の激痛?"結石"かもわからんね。とりあえずレントゲン撮ってみましょう」と言われ

レントゲンを撮ってしばらく待ってると

お医者さんに呼ばれ

レントゲン写真を見せてきて

少しはしゃぎながら

「ヒラ3さん見て見て!これ!くっきり!見える?石!」

と言った。

そしてお医者さんは真顔に戻り

「石で本当良かったです。石なら死ぬ事はない」

 

最後の言葉は少し怖かった。

そしてその言葉で安心した。

 

どうやら腎臓に石が出来たようだ。

不摂生な生活をするとなりやすいらしい。

たしかにこの5年の記憶はあまりない。

 

痛み止めの点滴を受けて暫くすると、嘘みたいに痛みが引いた。

「また、暫くすると痛むと思うから痛み止めの座薬だしときますね。石がオシッコと一緒に出るまで我慢して下さい。ではおつかれさまです」

 

痛みがとれてホッとしたら、お腹が減ってる事に気付いた。

近くの喫茶店でサンドイッチを食べてるとNから電話がきた。

石出来たわ。というと笑っていた。

 

その件があってから死ぬ事について考えるようになっていた。

この5年、自分は何をしていたのだろう。なんとなく日々を生きていた。

夢でも見ていたのか?

お笑いは?

ぷくはどこに行った?

何かしたい。動きたい。

このままじゃダメだ。

 

そんな時、ネットで「放送作家の学校の生徒を四月から募集」

というのを見た。

 

これや!と思った。

 

続く