5年後 5

放送作家学校に行く日がきた。

ここにはベテラン放送作家の先生が講師を務めているという。

どんな先生なんだろう。

少しは知っていた。

全国ネットの番組なんかでよくエンドロールで名前を見た事があったからだ。

 

ぷくが働いていたスーパーの近くの駅から電車に乗り15分くらいすると最寄り駅に着いた。

そこから歩いて5分くらいだ。

 

とあるビルに入り、エレベーターで5階に上がると緊張してきた。

 NSCの面接を少し思い出していた。

5階に着くと少し影のある男の人が名簿を見ながら、

「ああヒラ3さんね。どうぞ」

と淡々と言い、手で促され

教室みたいなとこに入った。

 

既にみんな座っていた。

 

第1感、思った事は「若い人が多いなあ」だ。

20歳前後の若い人達が座ってる。

 

自分は歳を取ったんだなあ。

 

椅子に座ると、程なくして先生が入ってきた。

背は低いがスキンヘッドで威厳がある。

和服みたいなのを着てた。

 

「えーみなさん、ようこそここへ。何で知ってここへ集まったのかはわかりませんが、まず一つお笑い放送作家として伝えたいのは

この世に"笑っていけないモノはない"という事です。」

 

そんな感じの事を言ってたと思う。

笑ってはいけないモノ?

偉人や賢人、お年寄り、障害者の方を頭に浮かべた。

 

うーん。

 

笑いにはそこまでのパワーが秘められてるという事なのか?

しかし、笑いに変えてその人が傷ついたらどうする?

 

自分ではよくわからないし

今考えてもわからない。

 

そもそも、傷ってなんだろう。

笑いによって受ける傷

 

例えば自分の頭にでっかいキノコが生えていたとする。それは抜けないし、切っても再生してくる。

周りの人には生えてない。

自分だけが生えてる。

"自分だけが人と違う"

それはコンプレックスになるだろう。

小学生なら

「キノコ野郎www」と

いじめられるのは確実だ。

 

傷つくと思う。

でも、その傷ってなんだろう。

 

他人と自分はそもそも"違う"

「同じがよかった」という気持ちは、そもそも間違いで、キノコがもし生えてなかったとしても自分と他人は違うのだろう。

 

違って当たり前で自分と他人Aと他人Bと他人Cもそれぞれ違う。

 

つまり同じだと思ったなら「傷つく」し

違って当たり前だと思ったなら「傷つかない」のかもしれない…

 

そんな事を考えながら

 

最初の授業はベテラン作家の話と

自己紹介で終わった。

自己紹介のやり方も一風変わっていて、

「隣の席に座った人とペアになって二人で前に立ってお互いに質問の投げ掛け合いをしながら自己紹介していく」

という面白いものだった。

 

授業終わりに先生は

「よし、飲みにいくぞ」

と言った。

どうやらお酒が大好きな先生らしい。

 

みんなでゾロゾロと飲みに行った。

 

先生のテーブルに座ったら音楽の話になった。音楽が好きらしい。

「好きなミュージシャン」を言っていく流れになった。

スピッツ」と答えると先生はへえ〜〜みたいな顔をした。

何のへえ〜〜だろう。

 

その後、全員ベロンベロンになるまで飲み、先生だけが「次の店いくぞ」と

ミナミの街を闊歩していく。

 

脱落者続出で

ハンターハンターの一次試験みたいな感じなんだろうなこれは、と勝手に思い込んでなんとかついていこうとしたら

男2女2先生オレの6人に減っていた。

 

この時に帰っておけば良かったな、、

と後から今でも後悔するような出来事が

起こる。

 

とある、バーに着いた。

先生は目が座っている。

女性が来てくれるのは非常に喜ばしい事だと言った。

男性陣に向かって

「おまえら、どっちの女の子がタイプや?」と聞いてきた。

 

男二人が先に答えていった。

自分の番がきた。

そこで、自分は「どちらの方もかわいいです」と言った。

 

先生の顔色が変わった。

 

先生「おまえ失礼やろ!何様や!」

 

意味がわからないけどとりあえず「すみません」と謝った。

先生の怒りは収まらず

「どういうつもりや?」と聞かれた。

「いや、本当にどちらの方もタイプなんで選べないです」

「考えられへん!失礼すぎる!」

 

そもそも最初に女性に対して失礼な質問をしてるのあんたやろと思いながら、すみませんを連呼していた。

あと、自分自身も嘘をついていたからだ。

好みのタイプは「Kさん」だ。

 

その後、30分くらい説教された。

 

家に帰るなり、

「初日から最悪だ〜〜〜〜」

と思いながらとりあえず飲み過ぎて気持ち悪いので吐いて寝た。

 

次の日、結石の病院に行き痛み止めの薬をもらった。

帰りにぷくから電話があった。

 

ぷく「結石?大丈夫なの?早くよくなったらいいね〜」

 

優しい

 

ぷく「そういえばさ、友達に誘われてコンパ行ったんだよね〜」

 

オレ「(コンパ???聞いてないぞと思いながら)へえ〜〜」

 

ぷく「そこに変な人が居てわたしの事、気に入ったみたいで言い寄ってくるんだけどねwどう思う?」

 

オレ「(誰だよそいつ殺すぞ)良いんじゃない?」

 

ぷく「ははは、まあいいや〜またね〜」

 

また、嘘をついた。

オレは嘘つきだったのだ。

 

続く