N ケンタッキー SとY 西成6

N「あれ?裸のネタの人やんな?凄い偶然やな。今から行くん?一緒に行こや」

覚えててくれてた。

 

Nはシュッとした岡山出身の男前だ。

「N君シュッとしてるな」と言うと

「シュッとしてんねん」

シュッとしてるのは自分でも分かっててシュッとしてると言われるのが嬉しそうだ。

しかしシュッてなんだろ?

彼はピンでネタをやっていた。

猪木の顔写真を身体に貼り付け病院に行き医師に病状を訴えかけるネタや

裸になって身体中に味噌を塗りたくるネタ(先生に床を汚すなと怒られていた)

そういった奇抜なネタを披露していて

周りからの評価も高かった。

優等生的なイメージだ。

実際に彼はクラスから何人か選抜されて

行う他の養成所との合同イベントに

選抜されていた。

 

同じマンションに居ると

めちゃくちゃ心強いな刺激になるしツイてると思った。

 

色々話しながら

教室に着いた。Nは社交的でもあったので(本人は人見知りと言っていたが)

Nに喋りかけにきた人が「あれ?友達やったん?」

N 「せやねん。一緒のマンションやってん」

すると今まで異物を見るような目線だったクラスの人達の対応が暖かく変わったように思えた。

Nの影響力すげえなと思った。

 

みんなのネタを見る授業が終わった。

自分もやりたかったけど

直してないしなあ…

家に帰り新ネタを考えようとした。

浮かばない…

 

なんとなくテレビを見てたらCMで

「ケンタッキーは誰が育てたかわからない鶏は使わない」とやっていた。

 

このフレーズ良いなあ。

これを柱にしようと思った。

 

先生シリーズ第二弾

生徒指導室にて

「学校で飼ってる鶏をケンタッキーに売りにいこうとした生徒を叱る」というネタが出来た。

決め台詞は「ケンタッキーは誰が育てたかわからん鶏は使わんねん!」だ。

 

出来た事に満足してろくに練習もせずに寝た。明日披露しよう。

一回出来たから大丈夫だろ。

 

教室に着いて自信満々に名前を書く。

自分の番が来た。前回ほどの緊張はない。よしやるぞ。

 

やりはじめた。

あれ?何をするんだっけ?

ネタ飛ぶ所じゃなくて何にも覚えてない。あのフレーズだけしか。

「えーっと、えーっと…」

声も小さくなってきた。

前の人達の顔を見ると下を向いていた。

見てられんわ…といった…いたたまれなくなって

途中で「ありがとうございました」

と言って終えた。惨憺たる結果だ。

先生に「練習しろ!」と怒鳴られた。

 

小さくなって座った。

誰も話しかけに来なかった。

 

頭真っ白で居ると

ネタ見せに知ってる顔が二つ並んだ。

SとYだ

SとYが漫才をしていた。

ネタは

コロコロコミックのキャラクターをやりたいとSが言う。

Yがやってみいやと言うと

ダッシュ四駆郎ミニ四駆おぼっちゃまくんの亀みたいに紐で引いて登場したり

ドッジ弾平が裁判官になって魔球敗訴ボールを投げると言った。

破茶滅茶なネタだ。

教室中大爆笑に包まれた。

 

その日は誰とも話さずに帰った。

どうしよう…

 

西成の色彩が灰色一色に戻っていた。

 

続く