Oさんが引っ越す事になった。
牛丼屋の社員だった彼はある程度まとまったお金がなんとか出来たらしい。
日頃から引っ越ししたいとよく言っていた。
「部屋に帰りたくないんよなあ〜」
引っ越し日当日
Nと俺で引っ越しの手伝いに行く事になるのだが、その時に"帰りたくない"理由がわかった。
案の定、「地球上でこの部屋だけ天災が起きたのか!!?」と思う程めちゃくちゃな汚部屋だった。
二階トイレ無し風呂なし4畳半典型的なタコ部屋だ。
壁には世界的な名優"ジェームスディーン"の肖像画の額縁が飾られていたのだが、心なしか泣いてるように見えた。
Nと俺は顔を見合わせた。
何も喋らなくても「ズラかろう」という表情が汲み取れた。
部屋から二人で草食動物のようにコソコソで逃げようとすると、それを察したOさんが肉食動物のようなギラつきで
「じゃあ、まずヒラ3君とNちゃんはこのベッドを運んで」と逃げさせないように大声で圧を掛けて指示を出してきた。
それだけ言ってOさんはどこかに消えた。
二人だけ残された。
4畳半の大半を占拠してるデカイベッド。部屋とのアンバランスさ加減で目眩がしてきた。
そのベッドは木製で底に引き出しがあるタイプだった。
Nが「引き出しがあるから重いのか」と呟いて引き出しを引っ張るとティッシュを丸めた物をが二千個超くらいはあった。
おえ〜!!!きたねえ!!!
もう、この忌まわしい呪われたベッドを
窓から投げ捨てようぜという話になった。
二階だけど窓の下は芝生だから大丈夫だろうという事で、「せーの」で二人で窓から投げ捨てて、ついでにタンスも投げ捨ててたら、血相を変えたOさんが部屋に飛びこんできた。
「二人共なにやってんの!大事な家財道具よ!」
家"財"
窓から芝生のベッドを見るとティッシュを丸めた物が何個かゾロゾロと虫みたいに引き出しから這い出していた。
Oさんが軽トラを借りてきて
そんなこんなで怒られながらもなんとかベッドとタンスを積み込んだ。
軽トラの主はOさんの知り合いで、移動中Oさんに「なあ、金いつ返してくれるん?」とずっと言っていた。
引っ越しした先は天王寺だった。
螺旋階段のあるちょいお洒落なアパートで6畳風呂有りトイレ有りエアコン有りだ。
まさに地獄から天国だろう。
その天国に忌まわしきベッドを螺旋階段でみんなで運んだ。輪廻転生かこれ?
そしてOさんは部屋の真ん中にドーンと配置した。
引っ越し祝いに俺は前に自分で買って後悔していた"魔法のスティック"とネーミングがついたコードレスのめちゃくちゃ"吸わない"掃除機をプレゼントした。
Oさんは喜んでくれたが、何日か経って「ヒラ3君のくれた掃除機全然吸わないんだけど」
と言ってきたのは言うまでもない。
「あれ?Hzが合わないのかな」
と誤魔化した。
続く