西成14 完結編

ぷくとの生活。

 

ぷくは遠路遥々と大阪に来たため、

誰も知り合いが居ない状況だ。

自分とNだけ。

けれど寂しそうな顔を見た事がない。

よく笑い、よくはしゃぐ人だった。

そして、ぷくは本が好きな人で

近くの図書館によく二人で行った。

群ようこ」の本をよく借りていた気がする。

ある日のこと

貴志祐介の「黒い家」を借りて読んでいたら怖くなったらしく、一人でめちゃくちゃ騒いで「もうこの先読みたくない!怖い!」と言っていた。

「じゃあ、読まなかったら良いやんw」

と言うと

「いや、読むけど。近くに居て」

そんな感じだった。

 

ぷくは歌手を目指していた。

当時、ゲーセンには自分の歌を録れる機能を持った機械があったので

二人でよく行っていた。

 

ぷく「恥ずかしいから中に来ないで。外で見張っといて」

「わかった」と言って

平日昼間の誰も来ない閑古鳥が鳴いてるようなゲーセンで"レコーディング"するのを待っていた。

 

ある日、「バイトに行くわ」と言い出した。

実家にお金送りたいからというのが理由だった。

 

「は?そんなん俺、考えた事もなかったわ!欲しい物買いなよ」と言うと

「いや、別に欲しい物ないよ」

と言った。

 

ぷくは近くのスーパーで夕方から深夜までバイトを始めた。

 

自分は牛丼屋で深夜バイト、二人の時間が合わなくなってきた。

けれど、それがお互いの「一人の時間」を作り出せたのかもしれなく、

二人の歯車が良い感じに回っていた。

 

ぷくが横に居るとネタを考える時間を感じなかった。

楽しいからだ。

ぷくがバイトに行くと、何かしなきゃなと思ってネタを考えたり、練習する時間を思い出して練習していた。

 

ぷくはぷくで何かしている感じだったがわからなかった。

ぷくは料理が上手でいつも美味しいものを作ってくれた。

 

10月になっていた。

4月に大阪に来て半年経った。

なんとなくそういえば10月は自分の誕生日だったなあと思ってバイト終えて、朝方ドアを開いた。

 

その瞬間「見ないで!!!」

とぷくが叫んで、何かを隠した。

 

ぷく「あーもう、早過ぎるだろ…早く帰ってきた過ぎだよ本当…」

不満そうにぶつぶつ言っている。

 

「なんなん?」と聞くと

ぷく「まあ、いいやちょっと早いけどプレゼントだよ。暇過ぎて作ったわ」

手編みのマフラーだった。

 

え?なんなん…これ。ちょっと待てよ

全然知らなかった…

「ありがとう…ありがとう」と言ってたら泣きそうになってきて、

「あっそういえばNと話すんだった」

と言って誤魔化して外に出て泣いた。

 

中に入ると、ぷくが「はいこれ、寝るわ」と言ってタオルをくれた。

 

そんな感じで、ぷくとの日々は幸せなだけだった。

 

NSC卒業日が近づいてきた。

自分はNSCにロクに行かなかったけど、

最後に卒業ライブがあり、誰でも最低1分は持ち時間を貰えて、ネタをする事が出来た。

 

最後は最初に作ったネタ「裸で学校に来た生徒を叱る体育教師の「the スッポンポンis keep walking on the ground」を叫んでやろうと思った。

 

ぷくに「見に来てよ」と言うと

 

ぷく「どうせ、滑るんでしょ〜無理無理wバイトだしね〜でも頑張ってね」と言われて送り出された。

 

そりゃそうだ。

 

NSCで優秀だった人達は持ち時間3分を与えられていた。

Nも3分与えられていてニヤニヤしながら「何しようかな〜〜」と悩んでいた。

 

俺は出来損ないのどうしようもない落ちこぼれなので

 

1分

 

逆に気楽だ。

 

「The スッポンポン is keep walking on the ground」

という言葉をぷくがバイトに行ってる間、ずっと練習していた。噛まないように。何千回も呟いていた。

 

卒業ライブ当日

 

いよいよ自分の番が来た。

お客さんが入ってる舞台に立つというのは初めてだ。

 

舞台に立つと

お客さんは縦に連なって見える。

そそり立つ断崖絶壁のようにプレッシャーをかけてくる。

 

ネタを開始した。

めちゃくちゃデカイ声で、叫ぶようにネタをした。

途中、ぷくが客席に居る事に気付いた。

泣いている様子だ。

 

最後めちゃくちゃデカイ声でぷくに向かって

「the スッポンポン is keep walking on the ground」と

 

叫んだ。

 

 

 

終わり