帰省

1月1日。

軽自動車に乗って夜、実家に向かった。

田舎の国道を15分くらい走ると35年ローンをまだ完済していない実家が見えた。

兄家族の車が止まってるのが見えた。

自分の車を止めるスペースあるかな?

とか思った瞬間、なんとなく実家を通り過ぎた。

 

あれ?なんで?

 

ここ数年、元日に甥や姪の顔を見たい、そしてお年玉をあげたいという気持ちで実家に寄っていたのになんでだろう。

 

そのまま通り過ぎると道が真っ暗になった。

周り一面田んぼで、その暗やみを一刀両断するかのような県道を走っている。

暗過ぎて怖いからノロノロ走ってると後ろから今まで何千回もこの道を通ってきたと言わんばかりの地元民らしいヤンチャな車が煽ってきた。

事故ったら死ぬ。落ち着け…

ゆっくり走ろう。はよ抜いていけや

しかし、この軽のライト暗過ぎやろ…

 

ビクビクしながら闇をしばらく走ってると明かりが見えた。

後ろを走っていたヤンチャな車もどこかで曲がっていて既にいなかった。

 

スーパーの駐車場に車を止めて、少し落ち着こうと思った。

心臓がドキドキしている。

 

プルームテックの緑を吸いながら、なぜ実家を通り過ぎたのか考えた。

お年玉をあげるのが嫌になった?

うーん、たしかに甥や姪が総勢4人はいるけど自分の中のお年玉分配比率

 

小学生未満→1000円

小学生低学年→2000円

小学生高学年→3000円

中学生以上→5000円

 

を考えると一万以内で収まる。

一万で嫌になる事はありえない。

むしろ、、、あげたい気持ちだ。

 

あ!!!

 

そのあげたい気持ちが問題なのかもしれないと思った。押し付けかも???

興奮してプルームテック吸い過ぎたのでカプセルを交換した。

え?でもあげたい気持ちは"叔父"として

ごく普通の感情だと思う。

 

自分が小学生の頃を思い出してみた。

 

自分はいやらしい子供だったので、

欲しいゲームソフトの値段を見て、

あのおじさんは大体5000は毎回くれるなあ、あのおばさんは3000くらいかなあ。じゃあ、あのおじさんとおばさんに会えば"超魔界村"買える!

 

とか綿密な計画を練っていた。

 

自分の可愛い甥や姪もそうなのだろうか?

 

多分、そうだろう!

血引いてるやん!

やらしい計算をしてるに違いない!

 

じゃあ、ここで自分が行かないと可愛い彼らの計算が狂うではないか!

 

よし!行こう!

 

実家に着いた。

 

父親が出迎えてくれた。

酔っている。

酒乱親父で暴れる癖がある。

 

父「おー!今日は泊まっていけよ!酒ならあるぞ」

「あー用事あるから帰るわ」

用事ないけど、この家にはあまり居たくない。

 

甥達が次々と現れた。

なぜかぴょんぴょん跳ねてる。正月仕様かよ可愛い。

あらかじめポチ袋に入れておいたお年玉を配った。

「ありがとう!ありがとう!」の連呼が飛んできた!至福の時だ。しかし

 

あれ?一番下の小学生未満の甥だけが不満気だ。

幼稚園の甥が涙を潤ませながら

「一枚しか入ってない…」

と言った。

 

やばいと思って、もう一枚千円をあげようとしたが、

 

ズレてくると思った。

もう一枚全然あげてもいいけど

 

小学生未満→1000円

小学生低学年→2000円

小学生高学年→3000円

中学生以上→5000円

 

小学生未満の子を2000円にすると

この表の金額を倍にしないと辻褄が合わなくなる…

 

その時に助け舟が来た。

 

兄だ。

 

「100円かと思ってたら1000円やん!良かったなあ〇〇。お菓子いっぱい買えるな。小学校に上がったらもっと貰えるからな」

 

すると、小学生未満の甥は落ち着いた。

 

すごいなと思った。

4人の子を持つ親は子供をなだめる方法を熟知しているのか…

 

しかし、この兄は昔から憎たらしいから

有り難いけど少しイライラした。

 

お年玉をあげたら、一仕事終えた気になって落ちついてきた。

母親が作った雑煮を食べていると、

 

甥達が将棋を始めていた。

 

まじか!え!去年、将棋とかしてなかったやん!俺めちゃくちゃ将棋好きやねん!興奮して餅が詰まりそうになった。

 

小4の甥と小1の甥の対局を見ていた。

ん???小1の甥の方が明らかに筋の良い指し方をしている。

この子は伸びるぞ!

やっぱり小1の甥が勝った。

 

興奮して最近、将棋道場に通って小学生2年の子と指して負けた話をした。

すると兄がニヤニヤしながら

「え?小学生に負けたん?w腹立ったやろ?w」

 

あーこいつやっぱクズだわ〜と思った。

小学生に負けたら、たしかに腹立つけど、"お前ほど"将棋でそこまで腹立つ訳ないやろ。

この兄は昔、将棋とかゲームで勝つと怒り狂って殴りかかってきたチンピラなのだ。

こういう奴はプライドが過剰に高すぎて自分の負けを認められないのだ。

自分の負けを認められないという事は、

勉強も学習もしないだろう。

大体、将棋というのは二人でやるもの。

半分は負けるのだ。

このクソ兄は100パーセント勝つつもりだったのか?ジャギだろこいつ。

 

小学生はめちゃくちゃ伸びる時、

俺が負けるとかどうでも良い話

この小1の甥は才能があるから道場に連れて行きたいというのが真意だったのに…腰を折られた。

 

小1の甥が「〇〇君(自分の名前)とパパ今度指してみて」と言った。

 

よし、昔の恨み晴らしてボコボコにしてやるか?

あれ?兄が目を瞑ってる。

寝たフリだ。まさかのタヌキ寝入り!

新喜劇かこいつ!馬鹿だろ!

 

負けがそんなに怖いなら死んでしまえ!

クズ野郎!

 

仕方ないので、将棋の駒でやる遊び「山崩し」というのを甥達に教えてあげた。

人差し指のみで山積みになった駒を音を「カチッ!」とか鳴らさずに取る遊びだ。

 

甥達はこの遊びが妙に気に入ったみたいで自分が人差し指で取ろうとしてる間、

ずっと盤スレスレの所で耳をすまして「カチッ」て鳴るか聞いていた。

「鳴った鳴った!」「今カチッ!て鳴った」とか騒いでいた。

楽しそうで良かった。

 

時間がきて、帰る時間だ。

兄家族は帰っていった。

母も帰っていった。

(酒乱親父の暴力に耐えかねて別居中)

自分も車に乗った。

 

35年ローンの家に親父を一人残して。

 

帰り道、ひどく腹が減ってる事に気付いた。餅二個の雑煮食べたのに。

Mの看板が見えたのでドライブスルーで

マクポセットを買ってポテトをつまみながらまた来年、実家に帰ろうと思った。

 

ポテトが妙にしょっぱかった。

 

 

ソフトせんべい

今、無性にぱりんこを食べたい。その気持ちを誰かに伝えたくて文を書いている。

許して欲しいこの気持ちを。

ぱりんこ知らない人に一応説明すると、

「ソフトせんべい」と言われるジャンルに所属してる塩が効いた米菓子だ。

煎餅も好きだけど煎餅は少し「ガチ感」強めで歯ごたえがあり固い。

煎餅には歴史と伝統があり、職人さんが

「一枚入魂」と書かれたハチマキを締めて、早朝から深夜まで仕事をしてるイメージがある。

 

凄すぎて重みを感じる。

 

煎餅を批判する事は許されないイメージだ。

少しでも煎餅を批判すると

あらゆる"煎餅通"の方々のお返しが待っている。

「わかってないなーw」

「熱い緑茶と一緒に食べてからもう一回出直して来てください」

「煎餅は厳密に言うとお菓子というジャンルを超えてるから、そもそもの前提があなたズレてるよ」

 

そんな中、登場したのがソフトせんべいだ。

まず手に持った時に軽い。

パリパリパリパリガンガンいける。

 

パリパリパリパリパリパリ

 

「そんなの煎餅じゃないよーw」

 

その声をかき消すかのようにパリパリパリパリしたい今。

 

近くのコンビニまで歩いて2分。

しかし寒い。

「寒さ」と「ソフトせんべい」

が頭の中で今闘っている。

 

寒さが優勢だ。

ソフトせんべいは多分寒さに負けるだろう。

「ソフトせんべいごめん。今日は無理」

ソフト「ん?いつ食べてくれてもいいよ」

 

ソフトせんべいはいつもソフトで優しい奴だ。

明日食べよう。

5年後 4

放送作家学校に入るための履歴書を書いた。

相変わらず汚い字だな…

丁寧に書いたつもりなのだが…

封筒に入れ郵送した。

 

約1週間後くらいに合格通知がきた。

よし、とりあえず行く先が決まった。

しかし、石が疼く…早く出てくれないかな…

痛みが激しくなると座薬を挿し、無くなると病院にまた薬を貰いにいくという事を繰り返していた。

一生出なかったら、どうしよう…

無限地獄…

こんな状態で大丈夫なのかしら

身なりも整えないとな…

伸び切った髭を剃り、めちゃくちゃ散らかったゴミ部屋を掃除した。

西成という地区は、自分みたいなズボラ人間に取ってみたらもの凄く居心地

の良い場所だ。

他人の事を詮索する人が少ない。

パジャマみたいな格好で昼間出ても平気。

最高の楽園だ。

反面、ダラダラした不規則な生活になりがちだったりもする。

Nなんかは部屋も綺麗で、規則正しく生活してるように見えた。

ゆえに、これは地域がというより

自分本来の性質と一致しただけだろう。

決して西成のせいではない。

 

ぷくに言われた言葉で思い出したのが、

何ヶ月か一緒に住み始めて二人でスーパーに買い物に行った帰り道の事。

何やらぷくが浮かない顔してため息をついてる。

「どうしたん?」と聞くと

ぷく「いや、なんでもない」

「何なん?」

ぷく「うーん、とても言いにくい事なんだけどね…」

「うん」

ぷく「〇〇ちゃんと居ると楽しいけど、凄く自分が"ダサく"なった気がするの」

「マジか」

「マジ」と言ってぷくは笑った。

 

全然分からなかった。

来た時と、そんなに服装とか変わってないように見えるけどな…

多分、服装とかの事ではないのだろう。

 

NSCを卒業してからバイトだけで生活し、"何もやろうとしていない"自分に対して感じた事なのだろう。

 

他にもこういう事があった。

ぷくがスーパーでのバイトに慣れてきて友達も出来た頃、

迎えに行くと今までは、はしゃぐような感じで走ってきたのに

友達と一緒に迎えに来た自分を無視するような感じで歩いていった事があった。

焦って追いかけていくと結局、「ネタだよ〜」とか言って笑っていたが、

今思うと不甲斐ない自分に対して

「もっとしっかりしろ!」というメッセージという捉え方もできる。

 

そんな事を思い出しながら

 

覚悟を決めて放送作家学校に行こうと思った。

 

続く

 

 

 

5年後3

放送作家学校に行こうと思った。

自分はやっぱりお笑いが好きだし、何より自分が一番笑いたい。

そんな事を思い出していた。

 

その学校は履歴書を書いて送るだけで、

合否が決まるというもので、久しぶりにワクワクしながら天下茶屋駅、構内にあるCDショップ兼文具屋に買いに行った。

駅には、証明写真を撮るボックスもありそこで写真も撮った。

そういえば、ここはぷくと来た事がある。

 

ぷくは大阪に誰も知り合いが居なかったため、ずっと寂しそうだった。

自分が深夜バイト行く前に起きると夕食が用意されてて何食べても美味しく料理の腕は上手かったと思う。

朝方帰ってくると美味そうな朝食が用意されていた。

ゆえに、吉野家で賄いを食べなくなった。

めちゃくちゃ有難いけどちょっともったいないなとも思った。

賄いシステム最高だと思ってたからだ。

しかし、ぷくの料理美味い。

ぷくは昼間、ずっと本を読んでいて、読み終えたらすぐ図書館に行くというのを繰り返していた。

自分が休みの日には二人でゲーセンに行き、録ったデモテープを送ったりしていたのだ。

そういう日々を繰り返しある日、

ぷくが「実家にお金を送りたい」

と言い出した。

「バイトするわ!暇だしね!」

そう言って一緒に天下茶屋駅までついていったのだった。

 

ぷくが証明写真BOXに座る。

 

「怖いからきて」

「いや、映ってしまうがなw」

「なんか証明写真て撮るタイミングおかしくない?」

 

カーテンの中からぷくの声が聞こえる。

 

「はよ撮れやw」

 

カシャッ

 

ぷくは現像された写真を見て不満足に呟いた。

「なんか変じゃない?」

「こんなもんやろ」

「なんか暗いっていうか覇気がない感じ」

「そんな事ないよ」

「もう一回撮ろうかな」

「いや、もう一回600円はキツイっしょ」

「けど、その600円をケチったお陰でバイト落ちたら、その方が損じゃない?」

「うーん…」

 

結局、ぷくはもう一回撮った。

思いっきり目を見開いて不自然なくらい笑顔の写真が現像された。

不自然だな…と思った。

明らかに「うかりたいでっせ」感丸出し

 

「これで良いでしょ?」

ぷくは満足気だ。

 

正直、さっきの方が良かったけど、あまりの満足さ感を醸し出してくるので

不自然な高い声で

「ええやん!」

と言った。

 

少し訝しげな顔をしながらぷくは

「よし、じゃあご飯食べよ〜」

「うん」

「ケンタッキーあるじゃん!!!食べよ食べよ」

二人でケンタッキーを食べた後の帰り道

 

ホームレスの人が道に寝ていた。

 

ぷくはそれまでホームレスの人を見かけた事がなかったので

びっくりして「え!」と言った。

 

自分はもう既に"慣れていた"ので

「こういう人もいる」と言った。

 

ぷくは助けないといけないと思ったのか、近くのコンビニでさっき買った

「おにぎり」をホームレスの人に渡した。

 

家に帰り、口論が勃発した。

 

「おにぎり無くなったな」

「さっきの人にあげたからね」

涼しい顔してるぷくに何か腹立ってきた。

「明日もあげるんやろな?」

「は?」

「今日あげたって事は明日もあげないとあかんやろ!」

声を荒げてしまった。

「いや、今日見てかわいそうに見えたからあげただけだよ。明日、外に出て歩いてみて"もし、その人が居て"かわいそうだと思ったら、またあげるし、かわいそうじゃなかったらあげないだろうね」

ぷくは冷静な声で言った。

 

そんな事を思い出しながら、履歴書を買って家についた。

 

綺麗に書かなきゃな…

 

 

続く

 

 

5年後 2

5年。

多分、それは忘れたい過去ではなくむしろ幸せな日々だったのだろう。

楽しい時はいつも詳細を思い出す事が出来ない。

反対に嫌な事はよく覚えている。

ただ、なんとなく生きてきてたけど、それはそれで幸せだったのだろう。

 

放送作家学校の情報を受け取った時に

ぷくがなぜ横に居ないのか?

という疑問が同時に湧いた。

 

"本当"に忘れていたのだ。

 

NSCを卒業してからの二人の日々、そして別れ

少しずつではあるが思い出して書けたら良いなと思う。

その事を放送作家学校に通うという本筋を語っていくと"同時に"5年間の出来事を思い出していく、

つまり"メインの柱"がまずあり、その周りをイルミネーションのように断片的なエピソードで散りばめるというのはどうだろう。

そうしよう。

 

それはつまり、放送作家学校の本筋を

クリスマスの木

もみの木だとする。

 

そのメインの木には"何の飾り"もなされていない。面白くない。

その飾り気の無い木に「ぷくとの思い出」という飾りを散りばめていくというのはどうだろう?

 

それはそれは鮮やかなクリスマスツリーとなる事だろう。

そうしよう。

 

話を戻すと、自分は「放送作家学校のチラシを見た」時に、色々と過去の思い出を思い出す事に意識がいったわけだ。

 

ぷくとはあの狭い部屋で最初はうまくやっていたと思う。

お互いに、遠慮し、主張すべき所は主張しあい、折り合いをつけ、バランスを取ってきたつもりだ。

 

しかし、そんな二人が切磋琢磨しても、崩れない壁があったと思う。

 

ここから先の話は長い長い話になる。

 

宮本輝が40年くらいかけて自分の生い立ちを書いた本が最近、発売されたらしい。

 

それよりかは長くはないと思うが、少しづつ

語っていけたら良いなあと。

 

あわよければ読んで頂いてある方々と一緒に過去にワープしたいと思う。

 

良かったらついてきて下さい。

 

続く

 

5年後

まだまだ寒い三月のある日。

朝、背中の激痛で目が覚めた。

何この痛み???

体験した事のない痛みが激しく波打つように襲いかかってきた。

痛い痛い痛い…

体勢をどれだけ変えても痛い。

 

西成のマンションで一人、情けなく泣いていた。涙が勝手に溢れてくるのだ。

仕方ないNに電話しようか…

いや、泣き声で電話して泣き顔晒したら生涯笑い話にされそう…

いや、そんな事言ってる場合じゃない。

これは多分「死んじゃう痛み」だ。

せめて泣き声が収まるまで少し待って、

Nに電話した。

繋がらない。

いつも繋がるのに繋がらない。

 

救急車?いや、近くの病院まで何とか歩いていこう…

杖があったら良かったけどないので

晴天の日にドデカい傘をつきながらノロノロととめどなく溢れる涙を拭いながら病院に向かった。

 

病院に着いた。内科?この激痛は内科で良いのか?

受付の人が「どんな症状ですか?辛そうですね」

「はい、朝起きたらとにかく背中が激痛で…」

「わかりました。緊急ですね。次お呼びしますので少しお待ちください」

とりあえず目を瞑りながら診察を待っていた。

少しと言われたけど、長い…

死ぬほど長く感じる。

待合室では爺ちゃんや婆ちゃんが楽しく談笑している。

「昨日まで俺もそっち側だったんだぞ」

と訳の分からない怒りが発生した。

身体を悪くすると、健康の素晴らしさに気付く。

普段は不思議な事に気付かないのだ。

と、誰かしら散々言ってた事を思い出していた。

その言葉すら普段、健康な状態の時は思い出せないのだ。

 

「ヒラ3さーん」

 

ようやく呼ばれた。

 

お医者さんに「背中の激痛?"結石"かもわからんね。とりあえずレントゲン撮ってみましょう」と言われ

レントゲンを撮ってしばらく待ってると

お医者さんに呼ばれ

レントゲン写真を見せてきて

少しはしゃぎながら

「ヒラ3さん見て見て!これ!くっきり!見える?石!」

と言った。

そしてお医者さんは真顔に戻り

「石で本当良かったです。石なら死ぬ事はない」

 

最後の言葉は少し怖かった。

そしてその言葉で安心した。

 

どうやら腎臓に石が出来たようだ。

不摂生な生活をするとなりやすいらしい。

たしかにこの5年の記憶はあまりない。

 

痛み止めの点滴を受けて暫くすると、嘘みたいに痛みが引いた。

「また、暫くすると痛むと思うから痛み止めの座薬だしときますね。石がオシッコと一緒に出るまで我慢して下さい。ではおつかれさまです」

 

痛みがとれてホッとしたら、お腹が減ってる事に気付いた。

近くの喫茶店でサンドイッチを食べてるとNから電話がきた。

石出来たわ。というと笑っていた。

 

その件があってから死ぬ事について考えるようになっていた。

この5年、自分は何をしていたのだろう。なんとなく日々を生きていた。

夢でも見ていたのか?

お笑いは?

ぷくはどこに行った?

何かしたい。動きたい。

このままじゃダメだ。

 

そんな時、ネットで「放送作家の学校の生徒を四月から募集」

というのを見た。

 

これや!と思った。

 

続く

 

 

西成14 完結編

ぷくとの生活。

 

ぷくは遠路遥々と大阪に来たため、

誰も知り合いが居ない状況だ。

自分とNだけ。

けれど寂しそうな顔を見た事がない。

よく笑い、よくはしゃぐ人だった。

そして、ぷくは本が好きな人で

近くの図書館によく二人で行った。

群ようこ」の本をよく借りていた気がする。

ある日のこと

貴志祐介の「黒い家」を借りて読んでいたら怖くなったらしく、一人でめちゃくちゃ騒いで「もうこの先読みたくない!怖い!」と言っていた。

「じゃあ、読まなかったら良いやんw」

と言うと

「いや、読むけど。近くに居て」

そんな感じだった。

 

ぷくは歌手を目指していた。

当時、ゲーセンには自分の歌を録れる機能を持った機械があったので

二人でよく行っていた。

 

ぷく「恥ずかしいから中に来ないで。外で見張っといて」

「わかった」と言って

平日昼間の誰も来ない閑古鳥が鳴いてるようなゲーセンで"レコーディング"するのを待っていた。

 

ある日、「バイトに行くわ」と言い出した。

実家にお金送りたいからというのが理由だった。

 

「は?そんなん俺、考えた事もなかったわ!欲しい物買いなよ」と言うと

「いや、別に欲しい物ないよ」

と言った。

 

ぷくは近くのスーパーで夕方から深夜までバイトを始めた。

 

自分は牛丼屋で深夜バイト、二人の時間が合わなくなってきた。

けれど、それがお互いの「一人の時間」を作り出せたのかもしれなく、

二人の歯車が良い感じに回っていた。

 

ぷくが横に居るとネタを考える時間を感じなかった。

楽しいからだ。

ぷくがバイトに行くと、何かしなきゃなと思ってネタを考えたり、練習する時間を思い出して練習していた。

 

ぷくはぷくで何かしている感じだったがわからなかった。

ぷくは料理が上手でいつも美味しいものを作ってくれた。

 

10月になっていた。

4月に大阪に来て半年経った。

なんとなくそういえば10月は自分の誕生日だったなあと思ってバイト終えて、朝方ドアを開いた。

 

その瞬間「見ないで!!!」

とぷくが叫んで、何かを隠した。

 

ぷく「あーもう、早過ぎるだろ…早く帰ってきた過ぎだよ本当…」

不満そうにぶつぶつ言っている。

 

「なんなん?」と聞くと

ぷく「まあ、いいやちょっと早いけどプレゼントだよ。暇過ぎて作ったわ」

手編みのマフラーだった。

 

え?なんなん…これ。ちょっと待てよ

全然知らなかった…

「ありがとう…ありがとう」と言ってたら泣きそうになってきて、

「あっそういえばNと話すんだった」

と言って誤魔化して外に出て泣いた。

 

中に入ると、ぷくが「はいこれ、寝るわ」と言ってタオルをくれた。

 

そんな感じで、ぷくとの日々は幸せなだけだった。

 

NSC卒業日が近づいてきた。

自分はNSCにロクに行かなかったけど、

最後に卒業ライブがあり、誰でも最低1分は持ち時間を貰えて、ネタをする事が出来た。

 

最後は最初に作ったネタ「裸で学校に来た生徒を叱る体育教師の「the スッポンポンis keep walking on the ground」を叫んでやろうと思った。

 

ぷくに「見に来てよ」と言うと

 

ぷく「どうせ、滑るんでしょ〜無理無理wバイトだしね〜でも頑張ってね」と言われて送り出された。

 

そりゃそうだ。

 

NSCで優秀だった人達は持ち時間3分を与えられていた。

Nも3分与えられていてニヤニヤしながら「何しようかな〜〜」と悩んでいた。

 

俺は出来損ないのどうしようもない落ちこぼれなので

 

1分

 

逆に気楽だ。

 

「The スッポンポン is keep walking on the ground」

という言葉をぷくがバイトに行ってる間、ずっと練習していた。噛まないように。何千回も呟いていた。

 

卒業ライブ当日

 

いよいよ自分の番が来た。

お客さんが入ってる舞台に立つというのは初めてだ。

 

舞台に立つと

お客さんは縦に連なって見える。

そそり立つ断崖絶壁のようにプレッシャーをかけてくる。

 

ネタを開始した。

めちゃくちゃデカイ声で、叫ぶようにネタをした。

途中、ぷくが客席に居る事に気付いた。

泣いている様子だ。

 

最後めちゃくちゃデカイ声でぷくに向かって

「the スッポンポン is keep walking on the ground」と

 

叫んだ。

 

 

 

終わり