明らかに知ってる人を「知りません」と言った事がある

小学生の頃、英会話塾に通っていた。

その塾は教室というよりは民家の一室(6畳くらい)にあって

そこに自分は毎週二回(一日二時間くらい)通っていたのだ。

そこでは英名のニックネームで呼ばれるというシステムがあり、

初めての授業時

女性の先生は名前が書かれた英単語カードみたいなのをペラペラめくって見せてきていきなり

「どれにする?」

と聞いてきた、え!?

"名前"をどれにする?と初めて聞かれてビックリしてしまった。

先生は続けて

「私の"おすすめ"はジョンかな、いやマイケルも捨て難いかな」

と饒舌に言っていた。

先生が自ら発案して考えたシステムだから興奮してるように思えた。

鼻息が荒い。

 

名前のオススメ!?

 

不思議に思った。なぜなら自分の名前を今まで決めた事がない。

外国人の名前のオススメも聞いた事もない。

先生は楽しそうでニヤニヤしていた。

英単語カードを改めて自分でめくってみると

他にもトムとかジョージとか外国人ぽい名前がいっぱいあった。

その中で自分はとりあえず適当に「ウィル」というのを選んだ。多分それは

先生のシステムに染まりたくないという反抗心からだろう。ジョンとマイケル以外ならどれでも良かった。

 

will

 

とにかく自分は「ウィル」になったのだ。

 

「ウィルね、今日からあなたはウィルよ」

 

自分で決めたのにも関わらず「え!?マジ?」みたいな表情をしてしまった。

 

その教室には一緒に学ぶ歳上の女の子が居た。先輩だ。

彼女の名前はゼニファーかゾフィーみたいな名前だったと思う。

ゼニファーは得意げに英語で話しかけてきた。

「ナイストゥミートゥユーウィル」

 

ゼニファーとは2年くらい一緒に学んでは居たけれど、ほとんど話さないまま

塾をやめた。

英会話もその時は少しは出来たのに今では全然出来ない。

 

それから5年くらい経って、

高校生になった。

 

駅で電車を待ってるとどこかで見た女の子が居た。

ゼニファーだ。

ゼニファーがこっちを見ている。

 

瞬間、なぜかやばいと思ってしまった。

 

ゼニファーがこっちに来て話しかけてきた。

「ウィル?」

 

久しぶりに呼ばれた自分のもう一つの名前に

俺は何か凄く恥ずかしくなって

 

めちゃくちゃキョドリながら

「違います。知りません」と言った。

 

彼女は「いや、ウィルやん!」と食い下がってきた。

 

逃げるように電車に飛び乗った。

「ソーリーゼニファー、またいつか話そう。今は無理やねん」

そんな事を思いながら電話の窓からゼニファーの顔を見ていた。

 

今思えば「ようゼニファー元気かい?」

くらい言えば良かったなあと、

そんな昔の事をなぜか思い出した。